もの忘れ外来/認知症外来

もの忘れ外来/認知症外来Forgetfulness & Dementia

当院ではもの忘れなどの認知症状に対して問診や診察、MRIなどの画像を適切に用い、できる限り正確な診断をして治療方針を決めます。しかし認知症診療は、お薬だけではどうにもならない部分がたくさんあります。認知症専門医・認知症サポート医として、地域包括支援センターやケアマネジャーと連携し、よりよい生活ができるようにお手伝いさせていただきます。

認知症とは

認知症とは一度正常に発達した知的機能が持続的に低下し、社会生活に支障をきたした状態のことを指します。
認知症の多くはゆっくりと進行してくるため、正常から認知症になる前の段階があります。つまり記憶障害など少し認知機能が低下してきているけれど、社会生活には問題が起きていない段階で、この段階を「軽度認知障害」と呼んでいます。ここから正常に戻る人も少なからずいますし、ほとんど変わらずにとどまる人もいます。しかし、半分以上の人はだんだん認知症へと進んできます。

認知症の段階を示すグラフ

認知症の原因

たくさんの疾患が脳の機能を低下させ、認知症の原因となります。
アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症が認知症を引き起こす代表的な疾患です。

血管性認知症は、動脈硬化などによる脳梗塞や脳出血が原因となって起こる認知症です。
一方、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症は、いずれも脳の中に異常な形をしたタンパク質がゆっくりと溜まってきて脳神経細胞がこわれてきてしまう疾患です。

認知症の原因疾患の割合円グラフ

アルツハイマー病

認知症の原因として最も多いのがアルツハイマー病です。
この病気は脳の中にアミロイドβとタウ蛋白という異常なタンパク質がゆっくりと溜まってきます。これらのタンパク質がだんだんと脳神経細胞を壊してくるのですが、最初に壊れてくるのが海馬です。海馬というのは脳の奥に隠れるように存在している、記憶をつくる(情報を整理して脳にしまう)ために大切な脳です。アルツハイマー病の早期はこの海馬が壊されることで記憶をつくることができない、要するに新しいことが覚えられないという症状から始まります。

アルツハイマー病の仕組み

しかし異常なタンパク質は海馬だけでなく、脳全体に広がってくるため記憶の障害に加えてさまざまな認知症状が出現してきます。日付や場所がわからなくなり、仕事や家事をするのに物事の段取りがつけられなくなってきます。見たものが何であるかわかりづらくなり、道で迷うようになったり、道具がつかえなくなったり、服の袖がどれだかわからなくなってくると着衣ができなくなってきます。

健常者とアルツハイマー病の比較写真

このようにさまざまな認知機能が時間とともに低下し、平均10年ぐらいで重度となり意欲や運動能力が低下して寝たきりになります。

アルツハイマー病の症状
  • 初期社会での生活に援助が必要

    • もの忘れで発症
    • 時間の見当識障害
  • 中期自宅での生活に援助が必要

    • 場所の見当識障害
    • 失認(みたものがわからない)
    • 失行(ものの使い方がわからない)
  • 後期生活のほとんどに援助が必要

    • 人格の変化
    • 無言・無動
「正常なもの忘れ」と「認知症のもの忘れ」の違い

記憶について考えてみましょう。眼や耳からはいってくる出来事の情報は海馬において整理整頓されて、脳の中にしまわれます(これが記憶するということ)。
それだけでは記憶は使い物にならないので、それを必要に応じて取り出す、思い出すという作業も必要です。
正常なもの忘れとは、いったんしまった記憶を取り出すことができない、つまり思い出すことができないという状態です。脳の中に記憶はしまわれているので、なにかきっかけやヒントがあれば思い出すことができます。
しかし、海馬が壊れる認知症では、出来事の情報を記憶としてしまうことができない。つまり記憶していないのです。脳の中に記憶はありませんのでヒントがあっても、なにがあっても思い出すことができない。
ですからもの忘れがあっても、思い出すことができれば、まだ大丈夫と思ってよいでしょう。

「正常なもの忘れ」と「認知症のもの忘れ」の違い

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症はレビー小体という異常タンパクの塊が脳のなかに溜まってくる病気です。
この病気の認知症の特徴は、視覚を司る後頭葉の機能低下が早くから起きて幻視が出やすいという点です。幻視はなまなましい人や動物、虫などがみえることが多く、妄想なども出現しやすくなります。健忘などの症状もおこってきますが、これらの認知機能がとても変動しやすく、正常のようにしっかりしているときがあるかと思うと、別の時はとっても症状が悪くなるという点もこの病気の特徴です。

レビー小体型認知症の仕組み

レビー小体は大脳だけでなく、脳幹や自律神経などひろい範囲にたまってくるため、認知症以外のさまざまな症状を引き起こします。
ひとつはパーキンソン症状です。もともとパーキンソン病とレビー小体型認知症はどちらもレビー小体が原因となる兄弟のような病気ですので、レビー小体型認知症でも、ふるえ、体が固くなる、動きが鈍くなる、歩行が小幅で転びやすくなるなど、パーキンソン病と同様の症状がみられます。
ほかの症状としては睡眠をコントロールする脳の機能障害から、夢をみて大声で寝言をいったり暴れたりするレム睡眠行動障害といわれる症状もこの病気ではよくみられます。自律神経という血圧や消化管、膀胱などを調節して体の生理機能を保つ神経がありますが、この神経もレビー小体によって壊されることから、立ち眩みや失神、便秘、尿失禁といった症状も出やすくなります。

レビー小体型認知症の特徴
  • 幻覚・幻視
  • パーキンソン病
  • 症状が変動する
  • レム睡眠行動障害
  • 自律神経障害

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は、タウ蛋白、TDP-43などの異常な蛋白が前頭葉や側頭葉に溜まることにより、前頭葉と側頭葉の機能低下から始まる病気です。
前頭葉にはさまざまな役割がありますがその一つとして、行動や欲求を制御・抑制するという働きがあります。この抑制は他人の迷惑になるような欲求を抑えて、社会生活を送るためにとても大切です。

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症ではこの抑制が壊れてしまい、他人のことを考えることができずに、気持ちのおもむくままの行動をしてしまうという症状が出てきます。
例えば、店先にあるお菓子が欲しいと思ったらそれをお金も払わず持ってきてしまうなどの、非社会的な行動です。病識がないため本人にはまったく悪気がないという点で万引きなどの犯罪行為とは異なります。
また同じ行為を繰り返す常同行動という症状も前頭葉の機能低下でみられます。これはどんな天気でも毎日同じ時間に同じコースをまわって同じスーパーに行って同じものを買って帰ってくる、といったような症状です。
一方、側頭葉は言語をあやつるのに大切な脳です。この病気で側頭葉が壊れることで、聞いた言葉の意味がなんだかわからなくなったり、言葉がうまくでてこなくなって周りから見て何をしゃべっているのかわからなくなったりする、失語という症状がでてきます。前頭側頭型認知症では早期の段階では言葉や行動の異常がみられても、記憶や計算、日付や場所といった見当識などの認知機能は保たれているため、診断が遅れてしまうことがあります。また比較的若い人に発症しやすいという特徴もあります。

前頭側頭型認知症の特徴
脱抑制
周囲を気にせず我が道をゆく行動。反社会的な行動になりやすい。
常同行動
同じ行動を繰り返す。
失語
言葉の意味が理解できない。言葉が出てこない。

血管性認知症

これは動脈硬化などによって血流障害をおこすことで大脳の機能が低下する病気です。
血管がつまって血流がとだえる脳梗塞と、血管が破れて出血する脳出血とがあります。いずれも脳卒中という形で突然に梗塞あるいは出血を起こし、急に認知症が出現あるいは増悪します。
またこのとき脳卒中を起こした部分の脳機能だけ低下しそれ以外の脳は保たれているため、例えば道具を扱うことができないのに記憶力は正常である、などまだら症状になります。

脳梗塞または脳出血の箇所

血管性認知症は突然発症するタイプだけではなく、動脈硬化によって小さな脳梗塞が少しずつ少しずつ増えてきてゆっくりと悪くなるタイプもあります。この場合、認知の脳だけでなく運動の脳も侵されることが多いため、呂律がまわりづらい、転びやすいなどの運動症状を伴うことが特徴です。
動脈硬化は生活習慣病や喫煙などが原因となりますので、これらの予防で血管性認知症は発症を防ぐことができる病気です。

血管性認知症の特徴
  • まだら症状
  • 突然発症、階段状増悪
  • 歩行障害や嚥下障害を伴うことが多い

認知症の検査と診断

認知症の検査は2段階に分かれます。

  • 第1段階認知症であるかどうかを調べる

    認知症であるかどうかを調べます。これには、問診と認知機能テストが行われ、特に問診は大切です。

    • 問診
      普段どのような症状があるかを家族など周囲の人が一緒に受診して説明することが重要です。
    • 認知機能テスト
      改訂長谷川式簡易知能スケールやMini Mental State Examination、時計描画テストなどの5分から10分位で終わる検査を行います。これによって認知症か軽度認知障害か正常かを判断します。
  • 第2段階原因となっている疾患が何かを調べる

    認知症の原因となっている疾患が何かを調べます。
    このために脳のCTやMRI、血液検査などを行いますが、特に治療法のある水頭症や頭蓋内血腫、ビタミンやホルモン欠乏症などをチェックします。

認知症の症状と治療

認知症の症状の考え方

認知症では記憶障害や幻覚、失語や脱抑制といったさまざまな症状が特徴的ですがそれだけではありません。たくさんの症状が出現します。これらの症状は大きく二つに分類されます。ひとつは中核症状、もうひとつは周辺症状です。

中核症状と周辺症状の図
中核症状

中核症状とは病気そのもので大脳の一部が障害されることによって起こってくる症状です。
例えばアルツハイマー病では海馬が壊れることによって記銘力障害が起こってきます。さらに病気がすすみ少し前のほうがこわれてくると、物事の段取りができなくなる実行機能障害が、後ろが壊れてくると見たものがなんだかわからない失認という症状が起きてきます。
このように中核症状は大脳の一部の機能低下によって必ず起こってくる症状です。

周辺症状

中核症状に対して周辺症状は、中核症状を元として、環境や対人関係、健康状態などのストレスが加わることで出現してくる症状です。
たとえば記憶障害のある人に、寂しさや焦り、対人関係のゆがみからくる不信感などがあると、ものがみつからないときに「あの人が盗ったに違いない」と思い込むもの盗られ妄想が出現します。これはアルツハイマー病では実によくみられる周辺症状のひとつです。
また記憶障害のある人がプライドを傷つけられる言動や苛立ちなどがつもってくると、怒りっぽいという症状がでたり、環境の変化や不安、興奮などといったストレスが加わることで徘徊といった症状が出たりします。

周辺症状は、ストレスが誘因となる

このようにして出現した周辺症状は易怒性、徘徊、介護への抵抗、暴言暴力といった介護している家族や周囲を振り回してしまう精神症状・行動障害であることから、介護の現場では「BPSD(認知症に伴う精神症状と行動障害)」と呼ばれています。このBPSDは原因となるストレスを改善させることで軽くすることができます。ですからBPSDに出会ったとき、介護を大変にさせるような症状をみたときは、認知症の方を苦しめているストレスは何であるのかをみつけ、それを取り除いてあげることが必要なのです。このBPSDが軽くなると介護はずいぶんと楽になります。

中核症状の治療

アルツハイマー病では早期からアセチルコリンという記憶や学習に関係する神経伝達物質(神経と神経の情報伝達に使われる物質)が低下してしまいます。この脳内のアセチルコリンを増やして、もの忘れなどの症状を軽減し進行を遅くするための薬が3種類あります。これらのうちの一つを早い時期から使用することで、病気の進行はある程度遅くなります。早くから使用したほうが効果も出やすく進行も遅くできるため、早期に診断を受け、早期から内服することが勧められます。

一方でアルツハイマー病では脳内のグルタミン酸という神経伝達物質の機能障害も生じるため、このグルタミン酸の機能を調整するメマンチンというお薬も学習や記憶の改善に効果があります。メマンチンはそれ以外に興奮などのBPSDを軽くする効果も認められていますし、コリンエステラーゼ阻害剤と併用することも可能です。中等度ぐらいに認知症が進行したときに使われます。

レビー小体型認知症については、塩酸ドネペジルが有効であることが認められています。

前頭側頭型認知症については、有効性が認められている薬はいまのところありません。

血管性認知症についても有効とされるものはありませんが、アルツハイマー病は高齢者ではとても多い疾患ですので、血管性認知症でもしばしばアルツハイマー病が合併します。そのような場合はアルツハイマー病のお薬が使われます。

認知症の治療薬
コリンエステラーゼ阻害薬

初期から使われる、脳内のアセチルコリンを増やす薬です。以下の内どれかひとつを使います。

  • ドネペジル(アリセプト®)
  • ガランタミン(レミニール®)
  • リバスチグミン(リバスタッチ®、イクセロンパッチ®)
NMDA受容体拮抗薬

中期以上から使われる、グルタミン酸の機能を調節する薬です。コリンエステラーゼ阻害薬との併用が可能です。

  • メマンチン(メマリー®)

周辺症状の治療

認知症のひとのストレスを知り、不安を取り除く

周辺症状・BPSDの治療はストレスをみつけて取り除いてあげるケアが基本となります。
認知症の方にどのようなストレスがかかっているかを知るには、認知症になった人の気持ちを理解することが大切です。

記憶というのは私たちと周囲とを結びつけるもっとも大切なものです。記憶障害があると、今どこにいるのか、今はいつなのか、今まで何をしていたのか、これから何をしなくてはいけないか、隣にいるのが誰なのか、そんなことが全ておぼろになってしまいます。これは認知症の方をひどく不安な気持ちにさせます。この不安のため、認知症の人は緊張の連続の中で生活しなくてはなりません。

すべては記憶でつながっている

私と周囲のものはすべて記憶でつながっている。記憶ができなくなると世界のあらゆることから切り離され、一人ぼっちの世界・不安の中で日々を暮らすことになる。認知症のひとは顔に出さなくても、いつも不安を感じて生きていることを知ってください。

そこにストレスが加わると、怒り、焦り、抑うつ、混乱といった周辺症状を簡単に引き起こします。
周囲の人の何気ないひとこと、例えば「さっきも同じこと聞いたよ」などもストレスとなり、興奮や抑うつなどの原因になることがあります。

ですから一番大切なことは、認知症の人が不安でいることを知り、不安を取り除いてやるように接することです。笑顔で接すること、プライドを尊重すること、そしてちょっとしたことでも褒めること。これだけでも不安を軽くすることができます。さっき言われたことを忘れてしまい不安で同じことを何度も尋ねてきても、その不安を取り除くように何度でも答えましょう。間違いを指摘したり怒ったりということは、ただストレスを強くするだけで周辺症状を悪化させるだけです。

周辺症状についての図

穏やかでいられる状態(ひとが望む状態)を保つために、周辺症状の原因となるストレス(周辺症状を引き起こす状態)を見つけ出し、それを取り除く(穏やかに暮らすために)ことが大切。

ひとりで悩まず、相談することが大事

そのほか、部屋が変わるなどの環境の変化、体調不良、お薬の副作用などたくさんのストレスが認知症の人にふりかかり周辺症状の原因となります。何がストレスになっているのかわからないときは一人で悩まず、他の家族や主治医、ケアマネージャー、デイサービスの職員などに相談しましょう。いろいろな面から考えた方が、よい方法がみつかります。

これらの方法でも興奮や焦燥などの症状が治まらないときは、漢方薬や抗精神病薬、抗てんかん薬などの気分を落ち着ける薬をつかう場合がありますが、副作用が出やすいので注意が必要です。

認知症の方と接するときに気を付けたいこと

  • 失われた能力はあきらめる
  • 真実や正論をつきつけない
  • もの忘れやそれに伴う失敗には触れない
  • 笑顔で接する
  • どんな小さなことでも見つけて褒める

認知症の予防

血管性認知症は、脳梗塞・動脈硬化に気を付ければ予防できます。

一方、アルツハイマー病はどうでしょう。
アルツハイマー病の発症の要因には、親から受け継いだ体質や遺伝、加齢、そして環境によるものがあります。遺伝や加齢は止めたり改善したりということはできません。
しかし環境によるものは変えることができます。いくつかの研究で、脳梗塞・動脈硬化があるとアルツハイマー病になりやすいことがわかりました。ということは、脳の動脈硬化を防ぐことは血管性認知症の予防だけでなくアルツハイマー病の予防にも役立つのです。
つまり動脈硬化を起こす生活習慣病、生活スタイルを改善することが、認知症全体の予防につながります。

生活習慣病で大切なのは高血圧、糖尿病、高脂血症です。この疾患を持っていると認知症になりやすいので、まずこれらを予防・治療しましょう。

生活スタイルも大切です。定期的な運動が認知症を予防することが、いくつもの研究で証明されました。

認知症の発症と進行を予防する方法

  • 生活習慣病をしっかり管理する(高血圧、糖尿病、高脂血症)
  • 生活スタイルを整える(食生活、運動、余暇を楽しむ、禁煙)

少しだけ速めのウォーキングもお勧めです。余暇を楽しみ有意義に過ごすことも予防に役立ちます。
食生活ではオリーブやナッツ、野菜、果物、鶏肉といった地中海料理が認知症の予防に有効と言われますが、実は和食も認知症を予防することが認められています。また緑茶・ワインに含まれるポリフェノールが認知症の予防に有効です。

このような方法によって欧米では近年、認知症の発症率が低下してきています。さらにこの生活スタイルを守ることは認知症の二次予防にも有効であることがわかりました。つまり認知症になってしまっても進みにくくなるのです。

認知症には予防方法があるのです。

認知症はだれでもかかる疾患です。
以前は治療法も予防法もない、何もわからなくなってしまい、徘徊をしたり、大騒ぎをしたりする状態になる恐ろしい疾患と思われていましたが今は違います。
認知症には予防法があり治療法があります。それらは完全に予防でき、完全に治療できるわけではありませんが、認知症の発症と進行を遅らせることができます。

また同時に介護する家族など周囲の人が認知症のことをよく知り、認知症の人のストレスを取り除くように関わることは、穏やかな生活を送るために何よりも大切です。

(本文章は、拙著 「わたくしたちの健康読本52号“認知症”」2020年長野県医師会発行 に加筆・修正したものです)